メリッサ・レ・ヌーブ: これからのクライミング

メリッサ・レ・ヌーブは昨季 IFSC(国際スポーツクライミング連盟)が開催するワールドカップで年間3位の好成績を残しながら、今季からは競技生活を離れ、ロッククライミングをメインに活動していくことを決めた。彼女にとってクライミングとは、始めたきっかけ、競技生活、これからの活動について、来日したメリッサに話を聞いた。

2016 年 12 月 19 日

15 才でクライミングと出会う

小さい頃から身体を動かすのが好きで、様々なスポーツを体験しました。スキー、カヤック、体操、バスケットボールやハンドボールのような団体競技…。でも、夢中になれるようなスポーツは見つかりせんでした。当時私が住んでいたボルドーは地形が平坦で、そもそもクライミングというものを知らなかったのです。ある日クライミングに関する話を聞いて、近くの小さなボルダリングジムに行ってみました。そこでスクールに参加してみたらすぐに夢中になりました。2006 年にクライミングを始めると同時に競技を始め、2年でフランスを代表するまでになりました。

当初はプロになることなど考えず、ただただ使える時間をできるだけクライミングに費やしてきました。幸いにも私を鍛えてくれるコーチやスタッフがいて、またペツル、アディダス、ファイブテン等の支援を受けることができ、ここまで来られたと思っています。雪だるま式に夢が膨らんでいったのです。またクライミングは常に学業の傍らで続けてきました。高校では医学や化学分野を専攻していたのですが、途中で完全な両立が困難になり、クライミングの道を選びました。今も学生で、在学期間を引き延ばしてクライミングする時間を確保しながら、歴史学部を卒業し今は医療を学んでいます。

クライミングと他のスポーツとの違い

クライミングは1つの表現行為だと考えています。自分でムーブを組み立てる楽しみがあるため創造的で、常に新しい発見があります。基本的には岩を触るだけの行為なので、一年を通して活動できるのも魅力です。

競技と岩場

クライミングを始めた当初から岩場とのつながりがあり、外でのクライミングは呼吸するのと同じくらい重要なものでした。ただ直近の2年間は競技に集中するため、外に行く機会が無く、ナショナルチームからも1つのことに集中することを求められました。競技は楽しく、上手くもいきました。昨季はワールドカップで総合3位の成績を残すことができたのですから。しかし、シーズンが終わってみると、現状に満足していない自分に気づきました。私には自然とのつながりが必要で、ロッククライミングが好きなのです。

もちろん、競技生活は重要なステップだったと思います。協会がすべてを管理してくれて、大会で好成績を残せば賞金が貰えました。いわば「安全地帯」のようなもので、この状況に「ノー」と言うのは簡単ではありませんでした。競技を引退するのは「これからは夢に、ロッククライミングに生きるの」と言って職場を飛び出すような感覚です。ただ同時にワクワクすることでもあります。これまでは誰かが自分のために決めてくれていたことを、今度は自分がやりたいように決められるのですから。時として大変なこともありますが、今は様々なクライミングをしてみたいという気持ちで一杯です。

これからのクライミング

女性には不可能だと思われていることに挑戦してみたいです。大変なことですが、不可能に挑戦することにやりがいを感じます。今回の日本での滞在はボルダリングのみですが、ショートルートやマルチピッチクライミングもします。できるだけオールラウンドなクライマーでありたいと思っています。

直近の予定として、まずはボルダリングで身体を強化して、それからフランケンユーラでのプロジェクトにトライするため、ショートルートに移ります。トライするルート名は秘密です。余計なプレッシャーを感じたくないので、なるべく話さないようにしています。それからロングルート、マルチピッチ、トラッドに挑戦する予定です。

登りたいルートを沢山リストアップしています。「ここに行きたい」というよりも、どのラインかが決め手です。目標となるラインがあって、その場所に行くという流れです。誰もが知っているようなドリームライン、例えば「Just do it」や「Biographie」。歴史的なルートにもトライしたいと思っています。自分のヴィジョンを確かめるようなこともやってみたいです。例えばまだ誰も登っていないラインがあって、名前も付いていない、それに名前を付けるような行為です。またルート名を知らなくても、その場で登りたくなることもあります。例えばこのあいだ瑞牆で見た「阿修羅」(初段)も美しいラインでした。出逢いが重要で、時がくれば登るべきラインに出逢うものだと考えています。

プロフィール

Mélissa Le Nevé
1989年7月8日生まれ
フランス、フォンテーヌブロー在住

競技:
2011年 IFSC ワールドカップ・ボルダリング年間総合4位
2016年 IFSC ワールドカップ・ボルダリング年間総合3位

ボルダー:
2011年 Black Shadows (8a+)、The Hatchling (8a)、ロックランズ
2012年 The Amphitheater (8a+)、ロックランズ
2013年 Diaphanous Sea(8a+)、フエコ・タンクス
2015年 Atrésie(8a)を含むフォンテーヌブローでビッグ・ファイブと呼ばれる5つの課題を登る

ルート:
2012年 Fifty Words for Pump(5.14c)、Southern Smoke(5.14c)、レッドリバーゴージュ
2014年 Wall Street(8c)、フランケンユーラ
2014年 Baa Baa Black Sheep (8c/8c+)、セユーズ