危険な環境での救助: GRIMP の訓練

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救助隊 GRIMP (フランスの特殊救助部隊) に世間の目が向けられることはほとんどありません。この部隊はエリートの消防隊員から成り、その役割は困難な場所で行う救助活動です。断崖、渓谷、洞窟、工場や都市にある高層建造物が、この部隊の典型的な現場となります。2015 年には合計で5千を超える救助活動を展開しました。

2016 年 10 月 12 日

カップ・カナイユ (地中海沿岸、フランス南東部) で行われたクライマーの救助活動

実地訓練

GRIMP は全ての部隊に高い効率性を求めています。生命が危機に晒されている時、救助活動は完璧に行われる必要があります。教育、訓練、シミュレーション、実地訓練は彼らの任務から切り離せません。この記事では2つの隊・GRIMP 13 部隊 (ブーシュ=デュ=ローヌ県)、GRIMP 83 部隊 (ヴァール県) の実地訓練を追いました。規則により最低でも1ヵ月に一度の実地訓練が求められていますが、この2つの救助隊では、1週間に一度が標準です。この救助隊に入隊したり、チームリーダーになったりするためには、試験に合格する必要があります。EcASC (公共の安全に従事する人の訓練学校) のインストラクターであり、フランス南部でも技術的なコンサルタントを務める司令官 Roland Mijo は、大きく異なる2つのタイプの訓練課題を与えました。GRIMP 83 部隊には建設現場のクレーンからの負傷者救助、GRIMP 13 部隊には岩壁で負傷したクライマーの救助です。それぞれのチームは4名の救助者と1名のリーダーで構成されています。負傷者の怪我に対処するため、いずれのチームも救急医療チームのサポートを受けます。

 

クレーンでの救助活動

クレーンオペレーターの救助

建設現場のクレーンに着いた時点で、チームリーダーが現場の状況を確認します。チームリーダーの役割は、要救助者を含む全員の安全を確保しながら、救助者を配置し、救助活動を指揮することです。最初の現場確認が終わったら、リーダーはクレーンの基部まで移動し、隊員にホワイトボードを使って救助活動における課題、考えられるリスク、救助活動における問題点について説明します。目標は負傷したクレーンオペレーターを運転席から救助することです。救助隊は梯子を使って要救助者を退避させることができるかどうか、下降させるのに別のシステムが必要になるかどうかを確認する必要があります。負傷者の看護と正しい救助方法の確認のため、2名の隊員がクレーンの上部へ向かいます。確認した結果、クレーンの基部に鉄屑が散乱していること、また要救助者の負傷が重篤であることから、梯子を使った救出はできないと判断しました。2名の隊員は、救急隊員、チームリーダーと協議して、レスキューストレッチャーを使って要救助者を救急車まで搬送することを提案しました。救助の状況によってストレッチャーを搬送する際の角度が決まります。要救助者の容体が最も深刻なケースでは、ストレッチャーを水平に保つ必要があります。ゴーサインが出たら、クレーンの上部にいる2名の隊員が支点を構築し、地上にいる残りの2名の隊員によってロープが固定されます。下降システムを構築したら、負傷したクレーンオペレーターをストレッチャーにしっかりと固定します。場所と状況によって前後しますが、この作業に30分必要です。全ての準備ができたら、搬送が開始されます。ストレッチャーはロープによって救急車まで搬送されます。
指揮官の Roland Mijo が詳細を語っています。「救急隊員が地上に待機しているような、比較的一般的な救助現場では、ストレッチャーの設定にかかる時間を除き、全てを 30 ~ 45 分で行う必要があります。しかしながら、より複雑な環境での活動や医療チームが直接要救助者に付き添う必要があるケースがあります。その場合、彼らも高所での訓練を受けている必要があります」

 

岩壁でのクライマー救助

建設現場での救助活動を終えてから、我々は地中海のカシスとラ・シオタとの間にそびえ立つカップ・カナイユの岩壁に向かいました。GRIMP 13 部隊の訓練課題は、岩壁の最上部よりちょうど 30 メートル下にある支点で身動きが取れなくなった負傷者の救助です。ヘリコプターに空きがない、風が強い等様々な理由でヘリコプターによる救助が行えない場合 (救助活動の98%にあたる)、岩壁上部での救助が1つの選択肢となります。救助の第一段階として、チームリーダーが現場の状況を確認するため、今回は負傷者の所まで懸垂下降で降りていきます。岩壁の中で収容するのが最適な行動方針であると判断しました。要救助者を引き上げる際の摩擦を防ぎ、かつ救助者が岩壁に衝突するのを防ぐことのできる引き上げ器具を使って、システムが設定されました。負傷者をストレッチャーに収容するため、2名の隊員が下部支点まで下降します。ストレッチャーは岩壁の上部に待機している残りの隊員によって引き上げられます。2名の救助者は、負傷者の救出後にロープ登高するか、ウィンチで引き上げられます。

 

すぐに使用できる状態でパッキングされた用具

いずれの実地訓練においても、救助隊は救助用の車輛で移動します。ロープ、ウィンチ、トライポッド、ストレッチャー、プーリー等、あらゆる救助現場に対応できる用具が、すぐに使用できる状態で車輛に搭載されています。時間を節約するため、救助隊員はヘルメットおよび各自の器具、そしてもちろんハーネスを装着した状態で車輛に乗り込みます。ハーネス『ファルコン』は、様々な救助現場に対応でき、ロープ登高の際にチェストハーネス『トップクロール』と併用可能なため、最適な選択となります。
最後に、今回の2つのケースはどちらも、危険な環境で活動する救助のスペシャリストにとっては、よくある状況でした。スムーズに救助を行うには、用具の使い方からチームワークまで、全ての技術を手際よく実行できること、そして日ごろから定期的に訓練することが必要です。訓練によって、生命の危機に対して完璧な救助が行える。これがトレーニングを積み重ねる理由です。

 

EcASC の指揮官 Roland Mijo のご協力に感謝します。