2023年秋 安間佐千インタビュー

今年の秋、山梨県での撮影の合間にアルテリアがサポートするクライマー、安間佐千に近況や今後について、話を聞いた。

聞き手:今井考

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近況

今井:最近ご結婚されたそうですが、リスクを伴うクライミングの活動に変化はありますか?
安間:リスクのことは「気にした方がいいんだろうな」くらいで、どちらかというと金銭的に支えていけるかをよく考えます。自分一人なら「最後はアルバイト生活で終わってもいいかな」ぐらいの気持ちだったんですけど、結婚したら「幸せでいたいな」とか「家欲しいな」とか、そういう隠れていた望みや不安が出てきて…そういうことをよく考えた1年だったと思います。そんな中で、いかに自由なクライミングを守っていけるかっていうのが、プロクライマーとしては課題ですね。
今井:もう少し経済的な安定を意識しながら、プロとして活動していきたい。
安間:不安はあるんですけど、仕事は自分がやりたいことをやっていきたい。プロとしてやっていけるのもそう長くないと思うので、その先はコーチ業に専念できれば、と考えています。
ずっとクライミングをやってきて、どんな岩場でもクライミングを楽しむ能力は高いと、自分では思っているんです。強くなることで膨らんでいくプライドとか、成功への野心によって生まれる緊張やおそれ、自分より強いクライマーや自分を超えていく若手への嫉妬…そういうものはクライミングを一瞬にしてつまらないものにしてしまいます。そういった感情や思考に巻き込まれていないか、常に注意深く自分を内観し、手放すように心掛けています。今日も 12d で落ちちゃったので、自分と同じような立場の人なら、悔しさで不機嫌になることもあると思うんです。でも、そういう感情やちっぽけな思考に巻き込まれなければ、クライミングをただ純粋に楽しむことができます。いくら実力を得ても、いつまでも楽しめない人もいます。より精神的にも肉体的にも、豊かにクライミングを楽しむ方向に導けるような指導者になれたら、嬉しいですね。
今井:落ちても楽しんでいる姿を見たことで、肩の力が抜けたというか、自分はなんかホッとしました。
安間:落ちた瞬間はそういうことよりも「ボルトが大丈夫で良かった」って思ったんです。落ちたボルトがオールアンカーで、開拓の経験からオールアンカーはすぐ折れるって知っていたので…。足がロープの内側に入っていたわけじゃないんですが、途中で足が引っかかったのか、頭が下になって…「ヘルメットしててよかった」とも思いました。頭は打ってないけど、「ヘルメットって重要なんだ」と改めて…。

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日々のクライミング

今井:日常的なトレーニングの時間が少なくなったとか、そういうのはありますか?
安間:時間は確保できているんですが、気持ちの部分に変化があります。「強さを維持するのって大変だな」とか「なんでこんなことしてるんだろう」とか、そういう感情に素直になってきています。今のクライミングスタイルに疲れを感じていたり、フレッシュさを感じられていない自分がいます。トレーニングをしないことがむしろ新鮮だったりするんです。それでも、クライミングはやっぱり今日もめっちゃ楽しい。「今の自分の位置はどこだろう」って感じで、自分を見つめ直しています。
今井:クライミングは楽しめている?
安間:そうですね、むしろ日々のクライミングは今まで以上に新鮮に楽しめている気がします。
自分がクライミングをやってて幸せだと感じるのって、登った後に頭がすごくスッキリして、いつもより景色がきれいに見える時間なんです。「それをいかに多く味わうか」みたいな意識が自分は強いんですけど、その持続時間を長くするのに、山を長時間歩き続けるみたいなことには興味があるし、マルチピッチのフリーソロとかもすごく興味があるんです。ビレイヤーのこととか気にせずに、自分の感覚にずっと浸っていられる。長時間の運動で、ずっと「きれいだな」「気持ちいいな」「おっと、危ない」みたいな。適度な集中の中にあって、恐怖を手放して、自由に開かれているような感覚。
今井:ある一定の時間の中に浸り続けるみたいな。
安間:その持続時間がボルダーだと短くて、僕には入りきれない。頭の中で描いた一瞬の完璧なイメージを決める感じ、そういう次元に入れなくて楽しみきれないんです。だから、リードの方がやっぱり楽しいのかな。
今井:登る前のムーブのイメージとかは?
安間:最近はあまりしないですね。もっとふんわりしてます。
僕は喜びのために登っていて、スタイルへのこだわりなどは二の次です。基本的には、喜びに来ている。「満ち足りたい」というのを、ブレずにずっと持っています。それをサポートするのがスタイルだったり、ルートの質やロケーション、難しさだったりすると思っています。それを登山の中でも見つけられたら、楽しそうだと思いますね。

来年に向けて

今井:来年の具体的なスケジュールみたいなのはありますか?
安間:来年はオリンピックがあり、上半期はコーチ業に専念していこうと思っています。下半期は小豆島や小川山の開拓をコツコツやりたいですね。あと、小川山、瑞牆あたりでドキドキするようなルートを1本開拓したいです。良いルートとの出会いがあれば…。そして、これからの3年間くらいで、自分のこれまでの集大成となるようなチャレンジをしたいと思っています。

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プロフィール

安間 佐千
栃木県出身のフリークライマー。IFSC ワールドカップで二度の総合優勝を果たすなど、スポーツクライミングで活躍。同時にスペインを中心に複数の 5.15 台のルートを再登。近年は国内の岩場で積極的に開拓を行っており、2022年には3年がかりのプロジェクトであった瑞牆山大ヤスリ岩の「最後の者」を登った。その模様は、2024年に「REEL ROCK 18」で公開される。