パタゴニアでのクライマーの日常とは

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アルゼンチン、パタゴニアの中心に位置する小さな村、エル・チャルテンは、パタゴニアの山々を目指す無数のトレイルの起点です。フィッツ・ロイ山群の麓に位置するこの地は、世界各地からやってくる旅行者にとって、クライミングと登山の中心地です。ショーン・ビジャヌエバがパタゴニアで過ごそうとした数ヶ月は、1年になりました。それはどれほど素晴らしい1年だったのでしょうか。達成感だけでなく、新しい友人や経験を共有することができた1年だったようです。ショーン・ビジャヌエバが世界の南端での生活について、冒険の合間に語ってくれました。

エル・チャルテンの日常

エル・チャルテンに来て1年以上が経ちました。こんなに長く滞在するとは思ってもみませんでしたが、最終的には本当に落ち着くことができました。パタゴニアは私の一部であり、ここが私の居場所だと感じています。四季を全て見ました。私はこれまでの人生でよく旅をしてきましたが、同じ場所にこれほど長く滞在したことはほとんどありません。今回の旅では、普段はできないような旅先での日常生活を送ることができました。

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どんな日常?

友人が貸してくれたバンに住んでいます。そのお返しに、彼らの土地でちょっとした仕事をしています。庭を作ったり、温室を建てたり、野菜を育てたりしています。今までやったことがなく、素晴らしい経験で毎日が勉強です。
冬はバンだと少し厳しかったですね。気温はマイナス 20 度まで下がりましたが、ポータレッジに比べれば、とても快適です。全ては相対的なもので、私は物事の過酷な側面が好きです。寒くても早起きして、川まで下りて行って冷たい水を浴びる、冬でも毎日そうしています。あまり長くはいられず、1分だったり、10 分だったりします。私は冷たい水の感触が大好きです。それによって目が覚め、活動的になり、良い1日のスタートが切れます。水から上がると、エネルギーに満ち溢れています。
その後、ウォーミングアップのためにランニングをしたり、ストレッチやヨガをしたりします。また、指の力を保つために少しハングボードをします。その後、食事をしてバグパイプ等で音楽を奏でます。もちろん、ティン・ホイッスル (縦笛) もありますよ。午後は、ボルダリングやスポートクライミングをします。

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冬は何を?

スキーツーリングです。時には5人までのグループで、毎日山の中で過ごしています。ベースキャンプを作って、その周りを滑るんです。アイスクライミングもします。今年のコンディションは最高でした。
冬の夜は長く、日中はとても短く、太陽は空の低い位置にあります。なので、私はバンの中で多くの時間を過ごしました。音楽を演奏したり、本を読んだり、特に考えたり、夢想したりする時間が多くありました。そうした中で、フィッツ・ロイ山群を逆に縦断するというアイデアが浮かんだのです。

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ルート開拓

La Chaltenense (500 m, 7a)
フィッツ・ロイを縦走した後、私は数週間レストしましたが、疲労の蓄積はあまりありませんでした。2〜3週間後、すぐにまた天候の安定した期間がありました。私はそれを利用して、フィッツ・ロイの南面に新たなライン「La Chaltenense」を拓きました。スムーズで非常に明確なフェイスなので、まだ登られていなかったことに驚きました。ただ南面なので、良いコンディションになることはあまりありません。ダブルフィスト、ニーバー、アームバーなど、人によっては楽しめるテクニカルなオフウィズスの 50 メートルのワイドクラックがあります。ジョン・グリフィンと共に、伝説的な山頂にこのような美しいラインを開くことができたのは素晴らしいことでした。
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Chaltén Sin Clecas (450 m, 7b)
12 月には El Mocho に「Chaltén sin Clecas」も開拓しました。「Clecas」やティックマークは、チョークでホールドの位置を示すマークのことです。これにちなんで、私は冗談で「Chaltén sin clecas (ティックマークの無いチャルテン)」という、ティックマークに反対する署名活動を始めようと提案しました。雨で流れてしまうにしても、それがあるのは残念なことだと思ったので、この名前をつけることにしました。今シーズン、最初に開拓したルートです。
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Chaltén Sin Chapas (450 m, 7a+)
最後に、同じく El Mocho に「Chaltén sin chapas」という別のラインを開拓しました。これは「ボルトのないチャルテン」という意味です。以前、12 月末に一度だけトライしたことがあるのですが、最後までは登れていませんでした。そこで、代わりに「Chaltén sin clecas」を拓きました。その後、登れなかったこのラインに戻ってみると、僅かな突破口からラインが見つかり、それはまるで魔法のようでした。とてもありそうもないラインです。そのうちの1ピッチは、切り裂くようにクラックが入った赤いスラブです。そして、唐突にクラックが閉じるのです。これでは登れない、と思わされます。結局、トライしてみたところ、3メートルごとにプロテクションをセットする箇所が見つかりました。
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優しいコミュニティ

1年間滞在したことで、自分がこの場所に属しているように感じられました。ここでの生活は、1、2ヶ月間だけクライミングをしに来たのとは違います。自分がローカルの1人であるように感じます。登ためだけにいるのではなく、いつでも好きな時に登りに行けます。普段から自分にプレッシャーをかけないようにしていますが、ここでは特にそうですね。

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隔離?

確かにエル・チャルテンでは隔離されているように感じましたが、それは広い遊び場の中に隔離されているようなものです。この村は9ヶ月間閉鎖され、パンデミックの影響から完全に守られていました。1月になって、再び国民の観光のためのアクセスが可能になりました。そして、それに伴ってウイルスもやってきました。私たちはより注意しなければなりませんが、今は全てがオープンです。

1ヶ月 vs. 1年?

クライミング・コミュニティは素晴らしいです。良いエネルギー、雰囲気、仲間意識。ボルダリングもスポートクライミングも、とても質が高い。特に今年は観光客がいなくて、とても落ち着いた雰囲気でした。ここにいるクライマーのほとんどはアルゼンチン人です。彼らは本当にクールで、私を彼らのコミュニティに受け入れてくれました。私は2ヶ月しか滞在しないつもりだったので、1年滞在するのに必要なものが揃っていませんでしたが、彼らはギアや服等を支援してくれました。
私は喜んでここに滞在します。大好きです!全てが揃っていて、天候が荒れていてもドアのすぐ外で、様々な冒険ができるのですから。しかし、いつかは帰らなければなりません。そして、私には他にも課題があるのです。