Riders on the Stormは、パタゴニア、トーレス・デル・パイネ国立公園の中心に位置するパイネ中央峰に拓かれた伝説的なルートだ。グレードは5.13 (7c+)。標高差1300mの壁は極端な悪天候に晒されることで知られ、クライミングに必要な日数を確保することが難しい。メイヤン・スミス・ゴバトはこのルートの全てをフリー化しようと決心した。2016年にイネス・パパートと初めてトライした際、全38ピッチ中34ピッチをフリー化したが、このニュージーランド人は再びこのルートに挑む。今回のパートナーはアメリカのクライマーであるブレット・ハリントン。目的は2016年にメイヤンを退けた残り4ピッチのフリー化だったが、残念ながら自然の協力は得られなかったようだ。
Riders on the Stormでのクライミング
2016年:冒険のはじまり
「パタゴニアに行きたいとずっと思っていたのですが、悪天候への不安があり、思い留まっていました。空が晴れるのをテントの中で待ちながら、6週間も無為に過ごしたくなかったのです。でも、イネスにRiders on the Stormにトライすることを打診された時は、断れませんでした。パイネ中央峰の美しさ、その真ん中に驚くほど直線的に引かれたラインに惹かれたのです。それだけでなく、ルートの歴史も非常に魅力的です。1991年にクライミング界における2人のレジェンド、ヴォルフガング・ギュリッヒ、クルト・アルベルトらによって初登され、それ以来2016年までに4度再登されたのみです。2016年にイネスと私が第5登を果たした際、なぜこのルートがあまり登られていないのか疑問に思いました。今回その理由を知ることになります」
たったの4ピッチ
「今年の目標はルート全体をフリー化することでした。2016年は登頂こそできたものの、全てのピッチをフリーで登ることはできませんでした。4ピッチ残ったのです。それがこのルートを登るためにブレットと私がパタゴニアに戻って来た理由です」
雪、氷、そして悪天候
「ブレット・ハリントンと私はパイネ中央峰に近づいて、がっかりしました。下部のスラブは氷雪に覆われていて、昨シーズンのコンディションや期待していたものとは程遠いものでした。しかし、雪に覆われ、支点の取れないスラブと格闘しながらも、私たちの決意は揺るぎませんでした。よりテクニカルなスラブに到達すると、広いエリアがベルグラで覆われ、ペースが落ち、やがてフリーで登ることができなくなりました。氷で覆われた壁、頻繁にランナウトするクライミングを完遂するために、知っている限りのあらゆるテクニックを駆使させられました。私たちの目標はRiders on the Stormの前半部分をなんでもありのスタイルで突破することに変わったのです。
昨年の2日間と違い、今回はひどいコンディションの中、4週間近い苦闘を経てようやく本来の目標に達することができました。昨シーズン、イネス・パパートと私で見つけたフリーで登れるバリエーションの核心部です。残念ながら天候は相変わらずひどく不安定で、何度か撤退を考えましたが、結局6週間丸々トーレス・デル・パイネで闘いました。そして最終的に課題だった4ピッチのうち2つをフリー化することができました。残り2つの核心ピッチは非常に難しいのですが、我々は来シーズンもここに戻ってくる予定です」
失敗しても多くの成功
「目標を達成することはできなかったものの、ブレットも私も今回の遠征を成功と捉えています。ひどくランナウトするスラブでのエイドとミックスクライミングを学ぶことができたし、数々のトライが濡れて寒い、惨めな敗退に終わった時でも、モチベーションを保つことができました。あらゆる挫折と失望を経ても私たちは考えを共有し、モチベーションが深刻なほど低下することはほとんどありませんでした」
Riders on the Stormの基部で雪に覆われたスラブと格闘するブレットと私。ひどいコンディションと遅いペースにもかかわらず、まだ笑顔
ある早朝のアプローチ、パイネ中央峰に向かう急なモレーンにて。「ルートが相変わらず雪とベルグラで覆われ、登れないのを見てがっかりする」
一か月かけてやっと下部のスラブを攻略。600mのユマーリングを経て、目標であるフリー化すべき核心の4ピッチにたどり着く
凍える手とつま先で登るのが今シーズンの日課だった
「再び訪れた嵐にもまれながら、パイネ中央峰東壁600m地点で疲労困憊し、身体を温める」
難しいピッチでのリードトライ: 17ピッチ目の核心部でのメイヤン
17ピッチ目終盤のルーフでパワフルかつテクニカルなムーブをこなすメイヤン
「今回の遠征で最後となる壁からの下降を終え、長い帰路に向けてクライミングギアを整理しながら、失望と折り合いをつけようとする」