2019アルテリア アスリートミーティング Vol.1

ペツル輸入販売元、株式会社アルテリアがサポートするクライマー(佐藤裕介、安間佐千、奥村優)が 2019 年 11 月に山梨県の瑞牆山で初めてミーティングを行いました。2日間にわたって不動沢エリアでトラッドルート※を登り、初日の夜にはサポートクライマーと当日撮影を担当した中島健郎、アルテリアスタッフ2名で懇親会を行いました。会の終盤、安間佐千が「今日語られたことはほとんど書けない」と言いましたが、いみじくもそのとおりとなってしまいました。そのため一部ではありますが、以下にその様子を3回に分けてお届けします。
※クリティカルパス(5.12c R)、ハードノックライフ(5.13a/b R)、霧の中で(5.13a)、愁いの王(5.13b R/X)

日程:2019 年 11 月7日-8日
場所:山梨県北杜市瑞牆山
メンバー
アルテリアサポートクライマー:佐藤裕介、安間佐千、奥村優
スタッフ:中島健郎(撮影)、兼岩一毅(アルテリア)、兼原慶太(アルテリア)

01
ウォームアップのためにボルダーに向かう

兼原:これまでにもそれぞれから話を聞くことはあったけど、今日は初めてペツルに関わるクライマーが集まってくれました。みんな世代も分野も違うけど、同じクライミングをやっているわけで、せっかくなので今回はお互いの理解を深めるということで、それぞれが気になるところを掘り下げて、率直に世代と分野を横断的に意見交換し合える機会になればと考えています。活字にできるものできないものあると思いますし、自主規制も入ると思いますが。
安間:(裕介さんは)甲府に住んでるんでしたっけ、どうですか甲府ライフって?
佐藤:もともと甲府に住んでてね。大学の時に石川県に行って、その時に甲府ってすごく良いところなんだなって。
安間:石川県ってあんまり行く機会がないですね。
佐藤:剱岳とか北アルプスが近いっていうイメージがあって行ったんだけど、クライミング的には厳しいね。
山登りはできるんだけど、冬の剱とかは1週間以上かけていくところで、週末土日で行くようなところじゃないからどこにいてもあんまり関係ないんだよね。山やるにしてもクライミングやるにしても恵まれたところじゃないんだよね。あっちから毎週のように(甲府の)実家近くまで登りに来てたくらいだから。でも沢や山スキーをやるには良い。
兼原:あんまり北陸のクライマーって会う機会ないよね。頑張って鳳来まで5~6時間かけて来る人もいるけど。
佐藤:それはだいたい富山の人ですね。まー環境的にはかなり苦しいですよね。安間君はどこに住んでるの?
安間:僕は飯能ですね。4年くらいになります。その前は茨城にいましたね。
兼原:裕介と優君、お互いのことは知ってる?
佐藤:もちろん。有名人ですから、お父さんのことも。
奥村:そりゃもちろん、ニュースでも。
全員:(笑)

04
クリティカルパス(5.12c R)をリードする奥村

今日のクライミング

中島:優君は山登りもやってるんですか?
奥村:山登りはあまりやってないですね、ほぼほぼクライミングで、クライミングでもほぼボルダーとスポートルートなので今回のこういう機会は貴重ですね。
佐藤:それで今日の…(数時間前にクリティカルパスを完登)
兼原:カム決めたのだって初めてみたいなもんだよね。
奥村:ほぼ。
兼原:ストッパーは初めて?
奥村:はい。
兼原:登ってもらうルートについては、実はちょっとやりすぎたかなと。
安間:僕も思ってましたよ。
兼原:初めてだからリハーサルの時のプロテクションを確認したけど、完璧だったよ。見落としてるところもあったけど、あの登りだったら問題ない。手持ちのギアとしてはあれ以上ないよ。結局さらっと登ったもんね。探って降りてきてすぐ次やりますって。こっちは「あーそー」みたいな。
安間:若干僕もそう思ってました。
佐藤:俺は結構ビビりながら登ったもんだけど。
兼岩:今朝の話ではカムで落ちたことないって言ってたよね。信用できたんですか?
奥村:緊張はしました。
佐藤:結局そのムーブで落ちる可能性があるかが自分で分かっているかなんだよね。
兼原:でも、ボルトと違って信頼できてなかったら落ちたときの担保が無く、感覚としてはフリーソロしてるようなもんだよね。でも初めてでちゃんと決められてたし、すぐやっちゃうからすごいなーって思ったね。
佐藤:最初のリハーサルの時に自分で決めてテストとかはしたの?
奥村:はい、します。手でグッと。で何度かストッパーが抜けたり。
兼岩:レッドポイントトライの時とかもすぐ決め直して、「えっ、それで行けるんだ」と思いました。

02
トップロープでプロテクションを確認する

兼岩:プロテクションに関しては落ちても大丈夫っていう自信があっての登りだったんですか?
奥村:はい、たぶん大丈夫だと。
安間:外れるのは外れるよね、ナッツとか耐えられるのかな。
奥村:そうですね、たぶん外れますね。
安間:衝撃吸収して外れて、下ので奇跡的に止まるかって感じ。フォールしてみたいですね、確認という意味で。
佐藤:必ずしもテストしてる方に引かれるとは限らないし、バウンドテストしてると欠けることもあるからね。実際はトップロープでトライして落ちないっていう確信を得てから登るから落ちる気はしてないんだけど。
兼岩:安間さんのハードノックライフはどうだったんですか?
安間:下部のランジするところがはじめは難しいなと思いました。
兼原:なんか普通って感じだったよね。優君がクリティカルパスをリハーサルしてる間に一人でぶら下がりながらホールド触って、下りてきて感想聞いたら「もうやります」って。
兼岩:そんな感じでした。
安間:クリティカルパスの方がちょっと辛かったですね。ハードノックライフはパーンで終わるので辛さがない。
佐藤:そんな気がする。プロテクション的にもクリティカルの方がちょっと怖い感じがする。
安間:ハードノックライフは自分の感覚では「R」付かないのかなって。「R」ってランナウトですか。
佐藤:リスク。
安間:あー。
兼原:落ちたら怪我するかもねってことで、「X」になったら死んじゃうかもねってなる。
兼岩:UK だと「E」に含まれるんでしょうね。結局登れれば登れるほど精神的負荷も低いっていう解釈で良いんですか?
兼原:登れるに越したことはないけど、登れる人がすべて同じことができるかといえばそういうわけでもない。
佐藤:登れるといっても、例えば最高グレードが高い人というよりはムーブの確度がトラッドだと大きい気がしますね。
兼原:クライミングは常に墜落に抗って登るものであって、そうである以上、墜落を意識しながら登っているかどうかっていうのは大きいと思う。ボルダーでも常にフカフカなマットが敷かれている状態で落ちる体勢を考えずに登ってるような人も見かけるけど、アルパインでもフリークライミングでもボルダーでも落ちることを意識しながら登っていかないといけないと思う。ボルダーでマットを敷くっていうのはある種トップロープ状態だよね。
兼岩:でも敷きますよね?
兼原:ふかふかにね。
全員:(笑)

05
ミーティング2日目に登った霧の中で(5.13a)

奥村 優

兼原:優君は今高校生で、お父さんもお母さんもクライマーだよね。今までどんな感じでクライミングしてきたの?
奥村:そーっすね、でも両親がやっているのでクライミングが生活の一部ってのはありますね。友達と遊ぶにしてもジム(両親経営の Ko-wall)の休みの日にジムで遊ぶとか、幼稚園でクライミングを初めてから今まで一緒に登っている友達とかもいるので、そういうのは結構うれしいですね。
佐藤:一番最初、幼稚園の時はクライミングが好きで始めたの?
奥村:最初は全然そんなことはなかったです。幼稚園の時は恐竜の化石を発掘する人になりたかったらしいです。けどいつの間にかそういうのはなくなって、クライミングが楽しくなってきたんですね。
佐藤:いつぐらいから楽しいなってなってきたの?
奥村:小学校3、4年くらいですね。ちょうどそのころコンペに出始めて友達ができて、勝てるときは勝てるし、わかりやすくて面白かったです。
佐藤:山梨だと少ないんだけどクライミングしてる子供も増えてきていて、でも大人がやらせてるみたいな感じなのは見てるとほんと悲しいなって。自分が楽しいと思えてクライミングするなら良いよね。特にアルパインとか今日やったようなリスクのあるようなクライミングなんて自分からやりたいと思ってやるようじゃないと。
兼岩:やらされてる、と思ったことはないんですか?
奥村:それはないですね。環境的にはあるけど直接やれと言われたことはないし、やめたければやめていいって感じで。
兼原:他のことに興味をもったことはないの?
奥村:あります。サッカーずっとやりたくて、でも遊ぶのにはちょうどいいなっていうくらいで、クライミングほど魅力を感じなかったです。
兼岩:友達と遊ぶとしたらジムで登るっていうのが多いんですか?
奥村:そうですね、でも高校入ってからはほとんど遊んでないですね。学校では仲良くしているけど、部活とクライミングの休みの日が合わなくて、しかも遊ぶより登ったほうが楽しいなって。
兼原:クライミングは遊びではないの?
奥村:なんなんでしょうね。遊びじゃないけど、何ですかね。
佐藤:なるほど、そこは違うな。俺にとってクライミングは完全に遊びだから、今でも。
安間:僕もその感覚はあるな。
兼岩:でも裕介さんは仕事でもあるわけじゃないですか。
佐藤:仕事でガイドしてるときは完全に仕事ですよ。自分でクライミングするとか山行くのは遊びというか趣味ですね。
兼原:真剣な遊びだよね。
全員:そうですね。

03
ハードノックライフ(5.13a/b R)を登る安間佐千

奥村:遊びの中でも高校生がする遊びじゃなくて、真剣に自分と向き合うというか。
兼岩:「遊び」と一言では表現しにくいものではあると。
安間:放課後のカラオケみたいな暇つぶしではないですよね、めちゃくちゃ真剣だけど遊び心にあふれている。
奥村:友達とかから趣味でやってるやろと言われると、「趣味じゃないけどな」というのはある。
佐藤:中学、高校の頃釣りが大好きで、でも一般的には「遊び」でしょ。下手だけど超真剣にやってたの。すごく好きで今と同じ感覚で。結局好きなことにはそうなるんだろうな、俺は。だから趣味にすべてを懸けるっていう、中学からずっとそうだったな。
安間:「趣味」っていう言葉って、人にとって捉え方が違いそうですね。仕事があって、家族との時間があって、自分だけの楽しみのための時間を趣味と言ったり。
佐藤:趣味っていちばん贅沢なんだよ。金のためじゃなく自分の楽しみだけのためにやるのが趣味と思ってるから、他のことは何も考えない。
兼原:安間君はプロだよね。クライミングを自分の収入に換えていくわけで、ある意味遊びと仕事が共通だよね。
安間:自分が最大限楽しんでいることを仕事として絡めていきたいっていう思いはあって、「プロとして」という意識ってあんまりないんですよ。誰と比較してるかって言うと、平山ユージさんと小山田大さんで、二人はよく「プロとして」っていう言葉を使うんですよ。僕はあんまりそういう感覚がなくて、自分が素直にできる表現をできる限り自由にやっていきたいし、それでプロとしての評価とか生きていくことが成り立たないんだったらそれで良いって思っていて。実際のところこのスタンスはもう長く続かないっていうのは感じてはいますね。まあ、でもまだ評価してくれる人とかそこに価値を見出してくれてる人たちがいるんで、それならば喜んで共にやっていきたいってところですかね。
兼原:優君は既にクライミングの実績としてそれなりの積み上げがある割に、これまで露出がほとんどなかったわけだけど、その辺りは今後も含めてどう考えているの?
奥村:何にも考えてないですけど、今まで露出したくなかったからしなかったわけではなくて、例えば難しいルートを登って、数か月後に人づてに聞いたっていう人から声をかけられたりとかもあるんで、別にあえてする必要はないかなと。
兼原:自分から発信する必要はないと。
奥村:まだそういうレベルでもないかなと。
安間:僕は見てもらいたいとか、自分のすごさを理解してほしいっていう欲求がすごくあったから、素直に爆発させてましたね。
兼岩:いつ頃ですか?
安間:やっぱりコンペっていうフィールドを選択していたのもそうですし、スポーツクライミングをずっとやってたのも、クリス・シャーマが発信するクライミングとかが憧れだったのもあるし、今のユースの子たちでそういう気持ちがある人たちのことも分かるから。何なら「どんどんイケイケ」みたいに思ってます。
兼原:そういう安間君から見た優君はどんなクライマーなの?
安間:あんまりそういう人いないんですけど、言葉無くして一緒に居られるっていうすごく楽な感じです。僕にとってはすごいことなんですよ。クライマーとしては一緒にツアーに行った中学1、2年生くらいの時に(セユーズで)13d あたりを片っ端から登ってた印象で、最近ではボルダーの成果も聞こえてきてるけど、クライマーとして育ってきてる部分は知らないんで、まだ子供のころの印象ばかりですね。なので今日明日でいろんな話を聞いてみたいなと。でも、多くの人が乗っている路線には乗っていないし、優君にしかない道があるような気がしますね。
兼原:優君自身は同世代の中でどういう存在なの。例えばコンペへの興味とかは?
奥村:コンペは、今のところでないですね。もしかしたらその気になるかもしれないですけど、たぶんないかな。特に理由があるわけではないですけど、どっちかって言ったらツアーに行きたいかな。

つづく…

プロフィール

佐藤 裕介
山梨県出身のアルパインクライマー。台湾での沢登りや厳冬期の黒部横断など、登山を含む幅広いジャンルにおいて、高いレベルで活動し続ける数少ないオールラウンダー。現在は山岳ガイドとしても活動している。

安間 佐千
栃木県出身のフリークライマー。IFSCワールドカップで二度の総合優勝するなどスポートクライミングで活躍。同時にスペインを中心に複数の 5.15 台のルートを再登。近年は国内の岩場で積極的に開拓し、国内最難課題を含むいくつかのハードルートを初登している。

奥村 優
滋賀県出身のフリークライマー。幼少よりクライミングを始め、国内外の岩場で継続して登る。2020 年2月にスペインの Oliana で Papichulo 9a+ をレッドポイント。3月に高校を卒業し、今後はクライマーとして国内外での活動を予定している。